海外でも好調、驚安の殿堂ドン・キホーテ擁するPPIHグループ。「信じて任せる」社員の個性育む、グループの知られざる人材育成と組織開発に迫る

株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)

■株式会社株式会社株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)
 ・常務執行役員
 ・アンサーマン本部長 兼 人財本部長

■株式会社ドン・キホーテ 代表取締役副社長

■株式会社長崎屋 代表取締役社長

赤城 真一郎(あかぎ・しんいちろう)

プロフィール
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  • PPIHの組織運営は社員への権限委譲をベースとした風土。「信じて任せる」を全社徹底
  • 採用のミスマッチを防ぎ、定着率の向上にも寄与。新入社員の3~4割が元アルバイト出身という組織を構成
  • 海外展開するPPIHの組織越境オペレーションを奏功させているのは、理念の浸透、そして多様な人材とDXの拡充

株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(本社所在地:東京都渋谷区、代表取締役社長CEO:吉田直樹)は、「驚安の殿堂」というキャッチコピーで知られるディスカウントストア「ドン・キホーテ」や、総合スーパーの「アピタ」「ピアゴ」などを運営しており、創業者である安田隆夫氏が一代で築き上げた企業だ。

国内外合わせて752店舗を展開する同社では、どのような採用活動を行い、社員育成、そして組織開発を実施しているのだろうか。多様な人材を採用する人事戦略について、同社常務執行役員の赤城真一郎氏に、シンガポール在住のPERSOLKELLY(PersolグループAPAC部門人材サービス子会社)のJapan Desk Head 勝野大がお話を伺った。

聞き手:パーソルホールディングス株式会社/PERSOLKELLY 勝野 大

PERSOLKELLY PTE. LTD.
勝野 大(かつの・だい)

2002年に株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)入社。人材紹介事業を中心に、求人広告、新規事業開発など、広範囲にて多様な役割を経験。2016年より執行役員として、日本国内の人材紹介関連事業を統括し、2019年には常務執行役員に就任。2020年より海外事業会社であるPERSOLKELLY PTE. LTD.に出向し、Regional Directorとして、事業戦略企画を担当。2022年より、11の国と地域にて日系企業向けのサービスを展開するJapan Deskの統括責任者を兼務し、現在に至る。

ドン・キホーテなどを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスはどういう会社?

――今や私たちの生活になくてはならなくなった「ドン・キホーテ」ですが、創業から今までの経緯についてお聞かせください。

赤城 真一郎氏(以下、赤城氏):「ドン・キホーテ」は、1989年に創業者の安田隆夫(やすだ・たかお)が立ち上げた店舗です。創業から11年後の2000年には東証1部に上場し、2024年には年商2兆円を突破しました。

現在、国内外合わせて752店舗(2025年1月現在/関連店舗すべてを含む)を展開しており、海外だけでも110店舗以上があります。どの店舗も各地の人気店として、多くのお客さまにお買い物を楽しんでいただいています。

――小売り事業以外にも、幅広く事業展開されています。

赤城氏:株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)は、リテール事業を中心に、不動産事業、テナント事業、金融事業など多岐にわたる事業を展開しています。

2013年にはシンガポールに持ち株会社を設立し、2019年にはユニー株式会社を完全子会社化。株式会社ドンキホーテホールディングスから、株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスに商号を変更しました。

本格的な海外展開は2017年のシンガポール(※)が始まりです。それ以前にも、ハワイなどに店舗はありましたが、ゼロから作り上げた店舗という意味では、シンガポールが初となります。「海外に住む人々にも、日本の良いものを安く届けたい」という思いが、安田の中に強くあったようです。

(※) アジアに展開する「ドン・キホーテ」の店舗名は「DON DON DONKI」

――狭い通路の両側に商品をたくさん積み上げる圧縮陳列、いわゆる「ドン・キホーテ方式」は、海外ではどのように受け止められているのでしょうか。

赤城氏:ドン・キホーテは単なるディスカウントストアではなく、非日常的な空間でいかにドキドキ、ワクワクしていただくかというアミューズメント性を大切にしています。

安田はよく、「我々は小売業ではない。変化対応業である」と言います。お客さまや世の中の状況に応じて、業態や顧客層を柔軟に変化させていくというのが基本姿勢となりますね。

――海外市場の顧客層は、海外在住の日本人なのでしょうか。それとも現地の方々ですか。

赤城氏:当初は現地に住む日本人や、日本の文化に親しみを持つ方々が主な購買層でした。しかし、コロナ禍を契機に変化がありました。外食が難しい状況で、地元の方々が店舗を訪れるようになり、日本の商品が海外の方にとっても喜ばれる存在であることを再確認しました。

これは単に売上が伸びたという話ではなく、日本製品や「ドン・キホーテ」の存在が新しい顧客層に認識されたという意味で、大きな転機だったと考えています。

――充実したお総菜コーナーなどは、外国の方にも喜ばれそうですね!

赤城氏:はい、お総菜は今まさに力を入れている商品です。シンガポールでは家庭で料理をすることがほとんどなく、会社帰りに買って帰ることが多いこともあり、お惣菜は人気の商品として歓迎されています。

日本国内と比較しても、海外店舗のお惣菜の売上は圧倒的に高い傾向があります。店内に出店している「冨田精米」のおにぎりもおいしいと評判で、多くのお客さまに支持されています。


「実力主義」と「権限委譲」に見るドン・キホーテの人材戦略

――国内外で活躍の場を広げる御社において、求める人材像や人事戦略についてお聞かせください。

赤城氏:採用面に関して申し上げると、当社は必ずしも「大人気の企業」というわけではありませんが、任せられる人材は順調に育っています。

それは社内の人材を積極的に抜擢(ばってき)し、権限を委譲する体制を整えているからです。また、実力主義を基盤とした納得感の高い評価制度を導入し、社員が成長できる環境づくりをしたり、実力より少し上の役割を任せることで、挑戦を通じて成長を促したりすることを重視しています。

さらに当社は、全ての社員が数字(目標)を持ち、評価時にはその達成度合いに基づいて話し合うことも特徴的です。この方法により、実力を公平に評価し、評価者との人間関係、つまり好き嫌いによる判断を排除できます。評価の際の納得感を高めること、これは非常に大切な要素だと考えています。

もちろん自分の能力以上のポジションを任されても、最初から完璧が求められるわけではありません。私自身、現在いくつかの肩書を持っていますが、全ての役割を完璧にこなせているかというと、正直なところ50点、60点といったレベルです(笑)。

しかし、重要なのは現時点でどのぐらいできるかということよりも、2年後、3年後に70点、80点が取れるかどうか。その能力と可能性を見極めて、人材を抜擢することには一定のこだわりがありますね。

――権限委譲を徹底されている背景には、どのような意図があるのでしょうか。

赤城氏:権限を委譲すると意思決定の機会が増え、自然と成長を促すことができます。当社には会社としての目標やコンセプトはありますが、細かいマニュアルは存在しません。「目標をどのように達成するか」を社員自身が考えて判断し、経験を積むことを大切にしています。

この手法には失敗がつきものですが、失敗こそが重要な経験だと考え、失敗から学びを深める中で、社員が力を付けていくことを期待しています。

――以前、安田さんが「最近の若い子は我々が若いころよりも格段に優秀だから、任せたほうが良い」とおっしゃっていたことを思い出しました。権限委譲は簡単ではないと思いますが、管理職の方々に向けての研修などは行われているのでしょうか。

赤城氏:「信じて任せる」ということは、安田からの重要なメッセージです。結果が芳しくないとつい口を出したくなるものですが、どれだけ我慢して任せられるかがカギです。

安田自身が細かい指示を一切しないのは、安田のすごいところです。人の長所だけを見るためには、心の余裕が必要なのかもしれません。とは言え、私たち経営層に対しては厳しいので、状況や相手に応じて的確に使い分けているのだと思います。


採用活動における気付きや課題、採用した人材の育成について

――自社への認知に始まり、採用活動、育成、定着という一連の流れについてお聞かせください。

赤城氏:当社の場合、新入社員の3~4割が元アルバイト出身です。アルバイト経験があることで、現場の経験や理念の理解が深く、正社員登用後も活躍し、長く勤続してくれています。実際、アルバイト経験者と未経験者では、離職率に10%以上の差異が見られることもデータからわかってきました。

――アルバイトから正社員になるために必要な適性は、どのような点だとお考えですか。

赤城氏:一般的な採用面接では適性テストなどを行うことが多いですが、そうすると似たような人材が集まりやすくなります。後になって多様性を考えるのであれば、採用の段階から多様な人を受け入れるとよいと考えています。

決まった適性を見るというよりは、多様性が当社の強みです。一人ひとりが自分の武器を持っていて、権限委譲されることにより、自分の良さに磨きをかけているような印象ですね。

私は面接官として相当多くの方とお話ししてきましたが、正直に言って、面接だけで相手を判断することはとても難しいことです。しかし、アルバイトやインターンとしての働きや実績を基に判断できればミスマッチを防ぎやすくなり、お互いにとって良い結果になると考えています。

――正社員登用される人に共通点はありますか。

赤城氏:「任せてくれるのがすごくうれしい」「こんなに任せてもらえるんだ」といった声をよく耳にします。

自分で考えて判断することは大変なことですし、マニュアルがあれば楽かもしれませんが、任されることでモチベーションが上がり、やる気につながっているのは事実です。

私自身、入社当初はとても面倒に思っていましたが、他社に勤める友人と話をしていると、日々の意思決定が成長につながっているのだなと感じたことを覚えています。

――苦労の裏にはやりがいがあるのですね。社員の人が活き活きと楽しそうに仕事をしていることも、アルバイトの方に伝わっている気がします。

赤城氏:そうですね。私が店舗を訪問するとアルバイトの方たちが「聞いてください!わたし、この商品をいま日本一売ってるんですよ!」というような話を、行く先々で聞かせてくれます。売上規模でいうとそれほどではないにしても、全店の数字を注視し、自分の責任の範疇(はんちゅう)で結果を出そうと努力をしてくれている証しです。

失敗しても自ら考えて解決し、腹落ちしながら次の段階に進んでいく。自分の得意分野を磨き上げて突き詰めていける。自分のやり方で結果を出せるというところが働きがい、やりがいにつながっているのだろうと思います。

――素晴らしいですね。「この人は絶対、社員にしたい」という人もいると思うのですが、スカウトなどはされるのでしょうか。

赤城氏:もちろん、当社に来ていただきたいなと思う人にはこちらから声をかけていきます。最近では、アルバイトの方を対象に、正社員に興味を持ってもらえるようなイベントを開催したりもしています。

――海外では理念で会社を選ぶことが少ない中、顧客最優先主義という理念を掲げ、買い物の楽しさを提供するという考え方に引かれて入社を希望する方も多そうですね。

赤城氏:日本、海外にかかわらず、まずはしっかりと理念を浸透させることを重視しています。海外の方にも当社の理念をしっかり理解してもらえるように各国の言葉に翻訳したのですが、これが非常に苦労したと聞いています。

――例えばヨーロッパへの出店があった時は、既存の社員をアサインするのでしょうか。それとも、外部から中途採用で配置するのでしょうか。

赤城氏:外部から人を採用して配置するということは、ほとんどしていません。能力の有無にかかわらず、「やりたい」と手を挙げた人にチャンスを与え、自主性を尊重しながら会社の成長を促しています。


今後の戦略、目指すビジョンや未来への展望について

――今後、アルバイトから正社員登用以外の採用手法の導入や、将来のさらなる成長に向けて、求める人材像などがあれば教えてください。

赤城氏:当社では多様な人材を求めており、特定の人物像をあえて設定しているわけではありませんが、強いて言えば、タフさやチャレンジ精神を持つ方が、当社には合うと思います。

また、グローバル展開する上では、多国籍な人材が不可欠です。DX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流においても、求める人物像に大きな変化はありませんが、作業的な業務は効率化し、より創造的な仕事にシフトするよう働きかけています。

経営人材の採用は、今後の課題として取り組んでいく必要があると認識しています。

――訪日観光客にもドン・キホーテは人気ですよね。海外からの需要などについて考えておられる方針などがあれば教えてください。

赤城氏:外国人のお客さまは非常に重要な顧客層です。インバウンド需要にしっかりと応えるべく、来日前からドン・キホーテの情報に触れていただけるような販促活動を強化していきたいと考えています。

国としても2030年までに約6,000万人の訪日観光客を目指しており、外国人が日本で働ける制度も大きく変わりつつあります。当社でも外国籍のスタッフが数多く活躍しており、彼らが働きやすい環境をさらに整備していきたいと思っています。

実は顧客の購買データを確認したところ、これまでにドン・キホーテに来店したことがない国籍は、わずか2カ国のみということがわかりました。このデータは、私たちの自信につながると同時に、グローバルな展開へのさらなる可能性を示していると考えています。

――若い女性などはコスメ商品を目的に来られるということで、ドラッグストアが競合になるのでしょうか。

赤城氏:確かに、コスメ商品に関してはドラッグストアが競合になる部分もありますが、当社ではあまり競合とは捉えていません。ドン・キホーテでは「長崎屋」の買収をきっかけに生鮮食品を扱い始め、現在はMEGAドン・キホーテを中心に食品アイテムの強化にも注力しています。

そのため、競合として意識しているのは安価で品ぞろえが豊富なスーパーマーケットなどです。これらの店舗に負けないよう、日々努力を重ねていきたいと思います。

――中長期的に目指されていることやビジョン・ミッションなど、経営戦略的な見通しについて教えてください。

赤城氏:決算でも発表している通りですが、2030年までに2,000億円の営業利益達成を目指しており、目標達成のために何ができるかということを日々考えています。

その1つとして重要なのが、顧客層を明確に把握することです。今後5年、10年先を見据え、将来のメインターゲットとなるであろう10代を含めた若い方の心をつかむことが、成長につながるでしょう。

若い世代には駅前のドンキや「キラキラドンキ」を利用していただき、年齢を重ねるにつれてメガドンキやアピタを活用いただく――といった形で、ライフステージに合わせた利用を目指しています。

若いころに当社に親しんでいただければ、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の観点でも大きなメリットがあります。何よりも、年齢や国籍を問わず、多くの方にドン・キホーテのファンになっていただけることが至上の喜びですから、その点は全力を尽くしていきたいと考えています。

――ありがとうございました。

【取材後記】

国内外を合わせて750店以上に上るPPIHグループ。各店舗で働く人材採用を成功することは容易ではないだろう。徹底した「権限委譲」でやる気を喚起し、チャレンジ精神を刺激するという手法で採用、定着を可能にする人材戦略から学ぶことは多い。今後、PPIHのグローバルな展開に注目したい。

[企画・取材・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション]

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