「入ってもすぐ辞める」を防ぐ!現場オンボーディングを充実させるためのポイントとは

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現場の受け入れ体制によって定着が大きく左右されることが多い。新人は最初のフォローが手薄だと早期離職につながってしまう
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根深い「新人とベテランがうまくいかない」問題。新人を受け入れる前に職場環境やルールを整備し、スタッフ同士の交流を活性化させるべき
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現場オンボーディングのコツは「オリエンテーション」「ウェルカムアプローチ」「初期トレーニング」。顧客と接するつもりで丁寧なフォローを!
働く人の雇用形態は、正社員や契約社員に加え、アルバイト・パート、派遣、業務委託、さらにはスポットワークなど、多様化の一途をたどっています。さまざまな働き方のスタッフが所属するような現場では、マネジメントの難度が高まり、定着・活躍がなかなか進まないケースも。
パーソル総合研究所のフィールドHRコンサルタント 枡家氏は、現場の最前線で働く人たちに定着・活躍してもらうために「本社人事だけでなく、現場リーダーも“現場のオンボーディング”に高い意識を持って取り組むべき」と指摘します。多様な人材が輝く現場起点のオンボーディングには何が必要なのでしょうか。その秘訣を聞きました。
早期退職につながる主な理由とは?
働き方や雇用形態が多様化しています。現場のマネジメントにはどのような変化が生じているのでしょうか。
枡家氏:多様化しているだけではなく、複雑化し続けていますよね。
雇用形態で見ると、正社員や契約社員、パート・アルバイト、派遣、業務委託、スポットワークなど、「現場」と言われる最前線の職場ではさまざまな働き方が混在しています。さらに近年では、学生や主婦・主夫といった働き手に加え、シニアや外国人、副業従事者なども加わっています。
こうした多様で複雑な人たちを束ねなければならない現場ではマネジメントの難度が高まり、せっかく入社した人に活躍してもらえなかったり、早期離職されてしまったりといった問題に直面しているのです。一つの事業所内にさまざまな人が混在することで、人間関係に起因するトラブルも発生しやすくなっています。
現場での定着が進まない要因はどこにあるのでしょうか。
枡家氏:アルバイト・パート領域を例に取ると、パーソル総研が行った調査(※)では、離職者の約半数が入社後半年以内に離職してしまっていることがわかりました。
出所:パーソルグループ・東京大学中原淳研究室「パート・アルバイト一般従業員調査/離職者調査」
このうち1カ月以内に早期離職した人は、「面接とのギャップ」「職場の雰囲気になじめなかった」「ベテランスタッフとうまくいかなかった」といった理由を挙げています。6カ月以内に退職した人は、加えて「フォローしてもらえなかった」といった理由が挙がるなど、新人スタッフは、現場の受け入れ体制によって定着が大きく左右されることが見て取れるのです。

また、応募時に重視していることを聞いた調査では、「シフトの自由度」というわかりやすいポイントに続いて、「職場の雰囲気が良いこと」が2位、「安全に働けること」が3位となっており、「時給が高いこと」は4位にとどまっています。
こうしたポイントを重視して職場を選んでいるのに、面接で聞いていた職場の雰囲気と違ったり、ベテランスタッフとのコミュニケーションが難しかったりしたら、早期離職につながるのも無理はないと言えるでしょう。
「現場の最前線を担う人」への投資を強化すべき
現場でのオンボーディング施策では何を重視すべきでしょうか。
枡家氏:新しく入社する人は、仕事への不安とともに、人間関係への不安も抱えています。これを理解することがオンボーディングの第一歩です。

オンボーディングで仕事を教えるのは当然のこと。それだけではなく、入社者が職場に溶け込めるように不安を取り除き、仲間として受け入れなければいけません。しかし、後者をないがしろにしている職場が少なくないように感じます。
新しく入社した人を丁寧にフォローせず「勝手に育っていくだろう」という感覚で見てしまう。現場のトップがこうしたスタンスだと、職場全体が人を大切にしなくなっていきます。
現場ではなぜ、オンボーディングへの意識が低下してしまうのでしょうか。
枡家氏:「現場にそもそも人が少な過ぎて心の余裕が持てない」というケースが多いのではないでしょうか。このような場合、本社や近隣店舗から応援やヘルプが必要となりますが、店舗を営業するためだけの支援ではなく、新人を丁寧にフォローできる環境を整備する支援も必要となります。
また、単純にコストとしての観点だけで現場で働く人材を見ているケースもあります。会社全体がこの考え方では厳しいですが、それでも店長や支店長など現場リーダーの権限の範囲で改善できることもあるはずです。
現場の実態を見ていくと、オンボーディングがうまくいかないケースでは「新人とベテランがうまくいかない」問題が根深いですね。ベテランスタッフの働く意欲が低い場合は、新人への嫌がらせに発展してしまうこともあります。その意味では、新人を受け入れる前に「既存のスタッフが楽しく働けているか」を見直す必要があるでしょう。ベテランスタッフだけが悪いのではなく、現場マネジメント全体の問題だと言えます。
既存スタッフのフォローに向けたポイントを教えてください。
枡家氏:職場の設備・機器を整えること、事故を未然に防ぐこと、ルールを整えること、スタッフ同士の交流を活性化させること。この4つを意識していただきたいです。
業態や企業によって異なりますが、店舗などの現場では「休憩場所が狭い」「整理整頓が行き届いていない」「道具や建物が壊れている」など、働く場所としての環境が整っていないことも珍しくありません。従業員として会社から大切にされていると感じられないばかりか、思わぬ事件や事故につながってしまうこともあります。
職場独特の暗黙のルールも、新人スタッフを混乱させたり、戸惑わせたりする原因となります。誰もが理解できる形でルールを整えることが重要です。
また、スタッフ同士の関係性が希薄な状態では、「一緒に働く仲間」だという意識が育たず、スタッフ同士の連携が生まれません。ミーティングなどのコミュニケーションの場を設け、既存スタッフ間の仲間意識を高めていく必要があります。
こうした事柄は、正社員対象であれば当たり前に整備されていることがほとんどだと思いませんか?しかし、非正規雇用と呼ばれる社員が対象になると、途端に整備のレベルが低下してしまう傾向にあるのです。本来であれば顧客と直接接する現場スタッフは経営にとっても重要な存在であり、経営者や人事、管理職は、そのような最前線を担う人への投資をより充実させるべきだと思っています。
現場のオンボーディング強化は企業ブランド向上につながる
現場でのオンボーディングを充実させるためのポイントを教えてください。
枡家氏:ポイントは3つあります。「効果的なオリエンテーション」「不安を取り除くウェルカムアプローチ」「自信をつけるための初期トレーニング」です。順に説明しましょう。

■効果的なオリエンテーション
入社初期のオリエンテーションのコツは、現場リーダーが時間を取り、「入社してくれてありがとう」という想いを入社者に直接伝えることです。これが入社者の不安を取り除く第一歩となります。
■不安を取り除くウェルカムアプローチ
入社者のことを名前で呼び、先輩スタッフたちにも知らせて、声がけできる環境をつくりましょう。入社初日に「あの人、誰?」と周囲に戸惑われるのと、先輩スタッフから「新人の○○さんですね、わからないことがあったら聞いてください!」と言ってもらえるのでは雲泥の違いです。「バイトさん」「派遣さん」などといった個人名ではない名称で新人スタッフを呼んでいる職場があります。このような行為は入社者を大切な仲間として尊重できているでしょうか。
■自信をつけてもらうための初期トレーニング
どんな仕事であっても、入社初期はマンツーマンでトレーニングすべきです。新しく入社した人は、仕事内容が単純な作業であったとしても、現場のどこに、どんな備品があるのか、誰に助けを求めていいのかさえよくわかりません。マンツーマンで丁寧に指導し、小さな成功体験を積んでもらうために意識的に褒めるようにすれば、きっと明日へのモチベーションにつながるでしょう。
上記3つのポイントに加えて、その日限りの付き合いになることもあるスポットワーカーへは「エンディングアプローチ」も行えるとベストですね。「今日はありがとうございました。おかげで助かりました」とねぎらいの言葉をしっかり伝え、「もしよかったらまた応募してください」と伝える。この3分程度でできるアプローチがとても重要なのです。実行している企業では、実際にスポットワーカーがリピートしてくれるケースも多いですよ。
現場の人材が定着・活躍している企業や組織には、どんな特徴がありますか。
枡家氏:うまくいっている企業は、顧客と一番近い距離で働く現場を、顧客と同じか、それ以上に大切にしていますね。最前線で働く人が最も重要だと考えているからこそ、血の通ったオンボーディングを実行できているのです。
こうした姿勢は、企業のブランディングにもつながります。人を大切にして、良い従業員体験を提供できる職場になれば、一度退職することになっても将来的に出戻りをしてくれる人が増えていくでしょう。
良い従業員体験は良い口コミとなって広まり、ひいては企業ブランドの向上につながります。現場でのオンボーディングを重視することは、最重要経営課題の一つだと言えるのではないでしょうか。
取材後記
枡家さんの話を聞く中で、現場でのオンボーディングの秘訣は、顧客サービス向上の秘訣にも通じているように感じました。枡家さんがかつて在籍していた大手ファストフード企業では、現場の最前線で働くスタッフのことを「内なるお客さま」と呼び、顧客同様に大切にしているそうです。「シンプルに『顧客と接するようにスタッフと接する』つもりで動いてほしい」。オンボーディングに悩む現場マネージャーに、枡家さんはそうアドバイスしていると話していました。
企画・編集/森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介
【対応者別】入社3か月以内に実施すべきオンボーディング施策の管理シート
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