“貯めるだけ”のタレントプールから脱却!約8,000人を“動かして採用につなげる”三井住友海上の実践メソッド

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三井住友海上火災保険株式会社

人事部 採用グループ アシスタントマネージャー 黑川 健人氏

三井住友海上火災保険株式会社

人事部 採用グループ 採用マーケター 笹松 藍子氏

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  • 「有効応募数増」と「採用コスト減」を目指し、オーガニックで母集団を保有できるタレントプール採用を導入
  • オウンドメディアを軸に継続的な情報発信を行い、募集ポジション発生時に即座にスカウト。スピード重視の選考設計で採用決定率を高めている
  • 人材紹介サービスに依存していた状態から、タレントプール経由で採用数の4割をコスト負担なく採用できるまでに。長期的視点で「辞退者・退職者とも関係を持ち続ける」カルチャーが成功を支えている

企業独自の採用力を高める手法として注目される「タレントプール採用」。過去に接点のあった転職希望者や自社に関心を寄せる人財の情報を蓄積し、継続的なコミュニケーションを通じて採用につなげる取り組みです。しかし実際には「登録データを貯めるだけ」にとどまり、母集団形成や選考に十分活用できていない企業も少なくありません。

三井住友海上火災保険では、過去の選考辞退者やアルムナイ、社員経由での紹介者、直接登録している「キャリア登録者」の計約8,000人を一元管理。オウンドメディアと連動した情報発信や、最適なタイミングでのスピーディーなアプローチにより採用成果へと結びつけています。同社が実践する「過去の“ご縁”を未来に“ツナグ”、“循環型”のタレントプール」の取り組みについて聞きました。

「有効応募数増」と「採用コスト減」を目指しタレントプール採用を導入

──まずは、タレントプール採用を開始した背景を教えてください。

黑川氏:自社独自の取り組みで有効応募数を確保する、いわゆるオーガニックでの母集団形成を強化したいと考えていたことが背景にあります。

ご存じの通り、採用市場はいま転職希望者がかなり優位の状態にあります。私たちは主にキャリア採用を担当しているのですが、ありがたいことに応募は毎年数千件単位でいただいているものの、顕在している募集ポジションに合致するスキル・経験のある方と出会うのは簡単なことではありません。

人材紹介サービスや求人広告、ダイレクト・ソーシングなどさまざまな採用手法を活用しているものの、それらだけでは必要な有効応募を確保しきれない状態が続いていました。そうした中、オーガニックで母集団を保有できるタレントプール採用に着目したのです。

加えて、私たちがキャリア採用に携わるようになった2023年当時は、キャリア採用全体の約9割を人材紹介サービスに頼っており、事業費への影響が大きな課題となっていました。オーガニック母集団からの採用を強化することで、コスト抑制を図りたいという思いもありました。

過去の選考・入社前辞退者から一般キャリア登録者まで、幅広い層が対象に

──御社のタレントプールには、現在約8,000人が登録していると伺いました。どのような方々が登録しているのでしょうか。

黑川氏:過去の新卒採用やキャリア採用で書類選考を通過し、選考辞退や入社前辞退となった方々を、ご本人の許諾を得た上で登録しています。

また、当社退職者であるアルムナイや、リファラルで紹介していただいた方々、毎月開催しているオンラインイベントに参加していただいた方々に加え、当社コーポレートサイト経由で直接「キャリア登録」していただいた方々もタレントプールに含まれています。

──過去の選考辞退者だけでなく、幅広い層をタレントプールで一元管理しているのですね。キャリア登録は広く一般に開かれていますが、何かしらの登録基準を設けているのですか?

笹松氏:基準はありません。当社の公式サイトから、どなたでも任意で「キャリア登録」を行っていただけます。実際に選考対象としてお声がけする場合は通常通り選考を行うので、登録時点で基準を設けてはいません。

──登録時に収集している情報は?

笹松氏:「キャリア登録」の場合は氏名やお住まいの都道府県、勤務先名などの基本的な情報だけで登録できます。さらに2026年1月よりAIによるマッチング機能を追加していて、登録者の経験・スキルと当社求人をマッチングし、活躍いただけそうな求人がある場合には、当社側からスカウトできる環境を構築しています。その際、簡易的なアンケートで入力いただいた情報だけではスカウト対象になりにくいので、「職務経歴や保有スキルなどの情報を充実させてください」と定期的に呼びかけています。

オウンドメディアを軸にしてタレントプールへ情報発信

──他社では、タレントプールに「データを貯めているだけ」になってしまい、採用活動に活かせていないケースも多いようです。御社ではどのような取り組みをしていますか?

黑川氏:おっしゃるように、タレントプールはただデータを「貯める」だけではなく、「動かす」ことに意味があると考えています。

当社の場合は、タレントプールの登録者に対して月2回程度、オウンドメディアの記事をピックアップしてメールマガジンのような形で情報発信を行っています。このメール内では最新の求人をご案内したり、応募を促したりすることもあります。こうした案内にリアクションがあった場合は、すぐにカジュアル面談など次のステップへつなげるよう取り組んでいます。

──登録者の中でも属性はさまざまだと思いますが、送信するコンテンツはどのように使い分けているのでしょうか。

笹松氏:当社との接点や理解度には登録者ごとに差があるため、ターゲット別にコンテンツを設計しています。

たとえば、イベントに参加したばかりの方やリファラルの方には、当社の事業内容やカルチャーについて改めて説明するコンテンツを送っています。一方、過去に選考を受けた方は当社に関する一定の理解があると考えられるので、仕事や人に焦点を当てたコンテンツを配信。アルムナイの方々には、人事制度の改定など、可能な範囲で当社の“今”がわかる情報を届けていますね。

その発信の軸となっているのが、2024年度から取り組んでいるオウンドメディアです。私自身もキャリア入社なので、当社の取り組みや制度について自分が気になること、もっと知りたいと思うことを企画して記事にしてきました。現在は月6~8本の記事を、ほとんど内製で配信しています。

キャリア採用の場合は新卒採用と比べて、インターンや説明会などの機会が乏しいですよね。転職希望者にとっては「なかなかリアルな情報に触れられない」という悩みもあるでしょう。だからこそ、企業が自らのありのままの情報を発信することに意義があると考えています。

転職希望者それぞれの「最適なタイミング」で再び向き合い、採用へ

──タレントプールから採用につなげるための工夫も教えてください。選考プロセスに入る場合は、どんなことに力を入れていますか?

黑川氏:選考スピードにはこだわっていますね。ポジションが空いた場合は、過去の選考辞退者などタレントプール内から合致するスキル・経験のある方へスカウトを送り、返信をいただけたらすぐにカジュアル面談を設定します。

過去選考に合格した方やアルムナイであれば、部門責任者と人事が同席する1回の面接で採用決定することもあります。転職希望者側も「再び声をかけてくれたことがうれしい」と言ってくれて、スピーディーに選考につながるケースが多いです。

──タレントプールから実際の採用につながった事例も知りたいです。

黑川氏:中央省庁出身の方の例では、一度の入社前辞退を経て、再び当社を受けてくれました。公的機関で長く経済連携交渉などを担当し、法令にも精通してコンプライアンス推進業務に必要な高い専門性を備えている方です。

この方は以前、新たな環境に挑戦しようと前職を退職し、エージェントを通じて当社へ応募いただいたことがありました。しかし選考合格のタイミングで別の分野から声がかかり、以前から関心があった領域に挑戦することになったんです。その後も定期的に連絡を取っており、ご本人が「もう一度民間企業でのキャリアに挑戦したい」と考えるようになったタイミングで再選考の機会を持つことができました。

笹松氏:別のケースでは、ある転職希望者の方が以前の選考で採用となった際、事業を立ち上げるチャンスと重なったことから、やむを得ず当社を辞退して独立を決断しました。しかし独立後に状況が変化し、再挑戦のチャンスを求めていた中で、当社オウンドメディアの記事やカジュアル面談のご案内をタイミングよく届けることができ、再び選考を受けて入社してくれた例もあります。

このように、転職希望者それぞれに人生のストーリーがあり、適切なタイミングがあります。タレントプールを通じて定期的に接点を持ち続けることで、両者にとって最適なタイミングで再び向き合えるのだと実感しました。

──タレントプール採用を開始して3年目となります。現在はどのような手応えを感じていますか?

黑川氏:定量面では、キャリア採用における人材紹介会社比率とオーガニック比率が直近で「6:4」となり、以前の人材紹介サービス経由約9割という状況を大きく変えることができました。定性面では、当社にとっての未来への資産であるタレントプールを維持拡大し続けられていることに手応えを感じています。

「長期的な覚悟」と「関係を途切れさせないカルチャー」が鍵

──ここからは、タレントプール採用に取り組みたいと考える企業へのヒントもお聞かせください。御社では現在、どのような運営体制を取っていますか。

笹松氏:キャリア採用担当メンバーを中心に、5人の体制です。

タレントプールのプラットフォームそのものの管理や登録者対応は外部ベンダーに依頼しており、月に2回、定例の打ち合わせを行って数値面のモニタリングや配信コンテンツの検討を行っています。転職希望者への対応は最優先で行っていますが、社内メンバーが日々の管理に追われることはありません。

黑川氏:ベンダーへ依頼するイニシャルコストは発生するものの、年間で見ても、タレントプール経由での採用数を考えれば十分に費用対効果が見合っていますね。

──取り組み開始当初、ROIなどの数値はどのように設計したのでしょうか。

黑川氏:当社の場合は人材紹介サービスに依存し過ぎていた状況があったので、タレントプール活用にかかるコストを「従来の採用費×人数」に置き換え、経営層へ提案しました。

新たな手法を導入するのは簡単ではないかもしれませんが、多くの企業で採用コストの見直しが求められている今だからこそ、提案が通りやすい可能性もあるのではないでしょうか。

──タレントプール採用を軌道に乗せる上で、企業は何を意識すべきでしょうか。

黑川氏:当社の場合は新卒も含め、採用活動で関わる転職希望者数が多いことがプラスに働きましたが、企業規模によっては、タレントプールの登録数拡大やタレントプールからの採用成果が出るまでに時間がかかるかもしれません。その前提を認識し、長期的に取り組む覚悟が必要だと思います。

笹松氏:企業のカルチャーも重要だと思います。過去に選考を辞退した方、退職された方を受け入れられるかどうかが、タレントプール採用の成否を分けると感じています。こうした姿勢を組織全体に浸透させるには、トップをはじめとして「過去の辞退者や退職者も仲間である」というメッセージを全社に発信し、企業風土を創り上げることが重要だと考えています。

──御社では今後、タレントプール採用をどのように発展させていく計画でしょうか。

黑川氏:直近の取り組みとしては、タレントプールのプラットフォームにAI機能を搭載し、登録していただいたキャリア情報をもとにスカウト対象を自動選定できるようにしました。これまではマスを対象としたコミュニケーションが中心でしたが、今後は個々にフォーカスしたコミュニケーションを深めることで、より成果につなげやすくなっていく見込みです。

私自身としては、タレントプール採用を進める企業がもっと増えてほしいと思っています。そんな採用市場になれば、転職希望者にとっても、企業がオフィシャルな情報をタイムリーに発信してくれることで、求人票だけでは見えない職場のリアルや社風を自ら調べやすくなります。結果として、転職希望者が主体的にキャリアを考える機会が増えていくのではないでしょうか。

【取材後記】

タレントプール採用の実例を聞き、「転職希望者それぞれに人生のストーリーがあり、適切なタイミングがある」という言葉が印象に残りました。一度ご縁がなかったとしても、時間が経てば状況は変わります。その変化を信じて接点を持ち続ける姿勢こそが、タレントプール採用に求められていることなのでしょう。採用を“点”ではなく“線”で捉える。そんな考え方が、これからの採用のスタンダードになっていくのかもしれません。

企画・編集/森田大樹(doda人事ジャーナル編集部)、岩田悠里(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

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