「今のスキル」ではなく「未来の活躍」を!Sakana AI流“活躍人材”を見極める選考設計【連載第25回 隣の気になる人事さん】
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研究と実装をつなぐApplied Research Engineer(ARE)の選考では、難解な技術課題を通じ、知識量よりも学ぶ力や実験設計、試行錯誤の過程を見極めている
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人材要件を定める第一歩は、自社で活躍する人材の行動を言語化すること。Sakana AIは現場と人事が協働し、職種ごとに選考を設計・改善している
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重い課題だからこそ、提出期限を設けず再挑戦も歓迎。あえてスピードにはこだわらず、面接やフィードバックの機会を設け、転職希望者との誠実なマッチングを重視している
全国各地の人事・採用担当者や経営者がバトンをつなぎ、気になる取り組みの裏側を探る連載企画「隣の気になる人事さん」。
第24回の記事では、株式会社LayerX(レイヤーエックス)の大石陽さんにご登場いただきました。
▼LayerXの大石さんが登場した第24回の記事はコチラ
「100人応募で1人採用」は健全か?LayerXがエンジニア採用で母集団拡大をやめた理由とその先
大石さんに「気になる企業」としてご紹介いただいたのは、最先端のAI研究を進め、その成果を日本の産業や公共分野へ実装するSakana AI株式会社です。
同社の取り組みで注目したいのは、欲しい人材の定義から逆算する選考設計と、転職希望者との相互理解を軸にしたマッチングを追求するスタンスです。
研究と実装をつなぐApplied Research Engineer(ARE)の選考では、実務さながらの難解な技術課題を導入。この課題には提出期限がなく、案内から1年後に提出する人や、一度不合格となった後に再挑戦する人もいるそうです。未知の技術を学ぶ力や、試行錯誤の過程を見るこの選考は、どのような考えから生まれたのでしょうか。

研究と実装の橋渡し役「Applied Research Engineer」(ARE)に求める力
――今回は「Applied Research Engineer」(ARE)というポジションの採用についてお話を伺いたいと思っています。そもそもAREとは、何を担うポジションなのでしょうか?
橋本氏:最新の論文や技術をキャッチアップしながら、自らコードを書いてプロトタイプを作成したり、実験したりする仕事です。研究成果を実際のサービスやお客さまの課題解決へつなげる、「研究と実装の橋渡し役」だとイメージしていただくと、わかりやすいかもしれません。
――AREとして活躍するためには、どんな力が必要ですか?
橋本氏:正解のない問いに向き合い、不確実な状況を楽しめることです。AIは常に進化しているので、今日の正解が明日には正解ではなくなっているかもしれません。そうした環境でも、自ら新しい技術を学び、考え、行動できる「自走力」を重視しています。
入社時点でどれだけ多くの知識を持っているかだけでは、入社後の活躍を予測できません。現在持っている知識や経験が、数カ月後には古くなっている可能性もあるからです。初めて触れる技術や課題に対して、どのようにキャッチアップし、仮説を立て、試行錯誤しながら成果につなげていけるかが問われます。

――そうした人材要件は、どのように定義したのでしょうか?
橋本氏:現場のエンジニアと人事が議論し、具体的な案件や職場環境を踏まえながら、「この環境で成果を出すためには、どんな行動や能力が必要なのか」「どんな人と一緒にはたらけば、チームとして成果を出せるのか」を丁寧に話し合っています。
現場メンバーには、転職希望者を探す段階から参加してもらっています。転職希望者のリストに推薦したい人を加えてもらったり、実際に人材を探してもらったりすることで、「私たちが求める人は採用市場にどれくらいいるのか」という感覚を人事と共有します。
こうした対話を繰り返すことで、現場が求める理想と採用市場の現実を共通の目線で捉えられるようになります。その上で、言語化した人材要件から逆算し、募集するポジションごとに選考プロセスを設計しています。
人材要件から逆算した「難解な技術課題」
――AREの選考では、書類選考を通過した転職希望者に技術課題を出していますね。
橋本氏:社内では「Technical Problem Set」(TPS)と呼んでいます。Sakana AIは研究チームから始まった会社で、もともとは創業者が研究者を採用するために設けた課題でした。現在は、その内容をARE向けに調整して活用しています。
選考では、まず転職希望者にTPSへ取り組んでもらい、提出後にその内容を題材とした技術面接を複数回行います。ここまでは、応募動機などよりも技術面の確認に特化したプロセスです。その後の面接で、本人がやりたいことや強み、会社のニーズを照らし合わせ、配属先や入社後に担ってもらう役割まで検討していきます。
――公開されているTPSのサンプルでは、指定された論文を要約・考察した上で、オープンソースのAIモデルを使って類似の実験を設計・実行し、その結果を技術レポートとしてまとめることが求められています。率直に言って、非常に難しい課題だと感じました。
橋本氏:確かに難度の高い課題だと思います。AREが実際の仕事で向き合うのも、それだけ難しく、正解が一つに定まらない課題なんです。
お客さまの現場で複雑な課題に直面したときには、それを楽しみながら解決していけるマインドも大切です。そのため、TPSに取り組むこと自体を面白いと思えるかどうかが、Sakana AIとの相性にもつながると考えています。
また、私たちは技術的な結論だけを見ているわけではありません。どんな前提や仮説を置いたのか、何を調べ、どのような実験を行ったのか、試行錯誤を経てどう結論に至ったのかを重視しています。さらに、研究者やエンジニアとして、検証結果をわかりやすく文章で伝える力も見ていますね。
こうしたTPSの評価や、技術面接も、現場のエンジニアに担ってもらっています。人材要件を考えるだけでなく、その要件を実際に見極めるところまで現場が深く関わる選考になっているからこそ、このやり方が成立しているのかもしれません。
重い課題だからこそ、転職希望者に誠実に向き合う
――難しい課題を選考の初期段階で出すと、応募や提出をためらう人もいるのではないでしょうか?
橋本氏:実際に、課題を送っても提出に至らない人は少なくありません。過去には社内で「課題をなくして面接だけで技術力を確認できないか」といった議論もありました。
それでもAREの選考でTPSを続けているのは、技術力だけでなく、難しい課題を楽しめるか、実験の結果を技術文書としてまとめられるかといった、面接だけでは見えにくい要素を確かめたいからなんです。
――できるだけ転職希望者の負担を軽減することも大切かと思います。どんな工夫をしていますか?
橋本氏:TPSには提出期限を設けていません。早い人でも提出まで2~3週間ほど、一般的には1カ月ほどかかります。半年後や1年後に提出してくださる方もいますが、遅いからといって評価が下がることはありません。「いつまでかかっても構わないので、自分が納得できるクオリティーで提出してください」と伝えています。中途採用を通年で実施しているため、提出のタイミングにかかわらず選考します。
在職中の方だと、課題にじっくり取り組む時間をなかなか取れないかもしれません。そのため、夏休みや年末年始を控えた時期には、課題を抱えている転職希望者へ「休暇中に取り組んでみませんか?」と声をかけることもありますね。

――選考プロセス全体を通して、転職希望者とはどのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか?
橋本氏:応募前にカジュアル面談を希望する方には、AREに期待される役割やチームの構成、日々の仕事などを説明します。人事が対応することもありますが、基本的には現場のエンジニアに話してもらっていますね。そのほうが、仕事について具体的で密度の濃い情報を伝えられるからです。
カジュアル面談をせずに応募された方にも、課題に取り組んでいただく中でエンジニアとの面談を提案しています。実際に一緒にはたらくエンジニアと話し、「この人たちとはたらきたい」「この課題に挑戦したい」と感じてもらえればうれしいですね。
――課題を提出した後の選考は、どのように進むのでしょうか?
橋本氏:これだけ時間をかけて提出していただいたのに、提出物だけで一方的にお見送りするのは誠実ではないと考えています。そのため現時点では、原則として技術面接へ進んでいただく方針です。面接官からのフィードバックも、可能な範囲で転職希望者へ伝えるようにしています。
また、選考を通過できなかった方の再挑戦も歓迎しています。実際に選考を通過しなかった方が翌年にもう一度受けてくれたり、何度か挑戦した末に入社してくれたりした例もありました。
――採用競争が激化するなかで、最近では「スピード選考」に取り組む企業が増えています。御社のARE採用は、この流れに逆行しているとも言えるのでは?
橋本氏:たしかに、AREの採用についてはスピードを犠牲にしている面もあります。提出後の面接はなるべく早く進めており、課題を受領してから合格までは、おおむね3週間から1カ月。それでも、他社の一般的な選考プロセスと比べれば遅いですよね。
また、「課題提出待ち」の方のリストがどんどん増えていき、いつ提出してもらえるか見えないので、人事としては焦りを感じる場面もあります。
それでも、ARE採用はこのやり方を続けていく方針です。そもそもTPSは、転職希望者を振り落とすためのものではありません。課題と面接を通じて一人ひとりと真摯に向き合い、お互いが納得できるマッチングにつなげることを大切にしています。
選考で見極めた力が、入社後の「たしかな活躍」につながる
――TPSで評価した力は、入社後の活躍にもつながっていますか?
橋本氏:つながっていると感じます。
Sakana AIでは、技術だけでなく、事業やお客さまの状況も常に変化します。短期間で新しい技術を学んで開発に活かしたり、状況に応じて仮説や方向性を柔軟に見直したりすることが求められます。TPSでそうした力を発揮されていた方は、変化の速い入社後の環境でも成果を出しています。

――他社では「選考で慎重に見極めたにもかかわらず、入社後に活躍してもらえない」というケースも少なくないようです。
橋本氏:当社のARE採用では、これまでのところ、入社後に大きなミスマッチが生じたケースはほとんどありませんでした。
仮に、「お客さまとの直接的なコミュニケーションよりも、技術や開発に集中するほうが強みを発揮できる」ことが入社後にわかった場合は、担当する案件や役割を調整しています。
選考中にも、AREとして応募された方に別の適性があると感じれば、異なる職種を提案することがあります。実際に、AREとしてTPSに取り組んだ後、プロジェクトマネージャーやビジネスアナリストなどのポジションで入社した方もいらっしゃいます。
一つの職種の要件に完全に当てはまるかだけを見るのではなく、その人の強みをどこで最も活かせるのかを考えることも、マッチングでは大切だと思います。
人材要件の答えは、「自社の活躍人材」に聞けばいい
――自社が求める人材像をうまく言語化できていない企業は、まず何から始めればよいでしょうか?
橋本氏:まずは、自社で成果を出している人が、実務でどのような行動をしているのかを言語化することが大切ではないでしょうか。
私自身もよく、活躍しているメンバーに直接話を聞いています。たとえば、AREのように研究と実装をつなぐ力と、お客さまの現場に入り込む力の両方を持つメンバーがいたら、「同じことができる人は採用市場にどれくらいいるのか」「訓練によって身に付けられるものなのか」「同じような人を採用するには、何を見ればよいのか」とたくさん質問しています。
新入社員には、「Sakana AIをいつ知ったのか」「何がきっかけで応募したのか」も聞いていますね。そうした声を集めることで、どこで転職希望者を探し、何を伝えれば応募につながるのか、ヒントを得られるんです。
――人事から現場の活躍人材へ「どうすれば、あなたのような人を採用できますか?」とストレートに聞いてしまうわけですね。たしかに、それがいちばん早くて確実だと感じました。
橋本氏:人事と現場の距離がある企業では、「それを考えるのが人事の仕事でしょ?」と言われるのが怖い、といった実情もあるかもしれません。その意味では、人事が何のために動いているのかを現場に理解してもらうことも大切だと思います。
Sakana AIでは、現場のメンバーにも積極的に採用活動へ関わってもらっています。転職希望者のリストを共有し、前職のつながりや知人に限らず、「この人は良さそうだ」と思う方を追加してもらうこともあります。
人材要件が非常に高いポジションの場合だと、人事と現場が一緒に探すことで、「実際には該当者がほとんどいないんだ…」と目線を合わせることもできます。同じ現実を見ることで、「この要件は譲れないけれど、こちらは見直せるかも」といった議論ができるようになるんです。

――そうして定めた人材要件や選考プロセスも、状況に応じて見直し続けているのでしょうか?
橋本氏:はい。現場のエンジニアリングマネージャーとは、採用の状況を週次で振り返っています。採用数だけを追うのではなく、必要な人材の質をどう担保するか、どんな戦略で採用していくかを常に話していますね。
事業や組織が変われば、求める人材も変わります。たとえば最近の例では、お客さまの現場に深く入り込んで課題解決を担う「Forward Deployed Engineer」(FDE)というポジションを新たに設けました。AREとは重視する能力が異なるため、コミュニケーション力なども深く見極められるように別の選考プロセスを設け、現在も改善を続けています。
――自社で活躍する人の仕事を言語化し、その仕事を小さく再現するような機会を選考に取り入れる。この方法は、どんな企業でも、どんなポジションでも取り入れられそうだと感じました。
橋本氏:自社の選考や採用にとってプラスとなるのはもちろん、転職希望者にとってもプラスになると思います。
志望する企業の活躍人材がどんなふうにはたらいているのか。それを体験できれば、転職希望者も「本当にこの仕事を面白いと思えるのか」を自ら確かめられるはずです。入社後の活躍につながるマッチングを実現するには、仕事を具体的に理解し、転職希望者ご自身が活躍イメージを持てるような工夫が不可欠なのではないでしょうか。
【取材後記】
公開されている技術課題を初めて見たときは、その難しさに圧倒されました。しかし、橋本さんのお話を聞いて印象に残ったのは、重い課題だからこそ、転職希望者に誠実に向き合おうとする姿勢です。期限を設けず、再挑戦を歓迎し、課題を起点に現場のエンジニアと対話する。選考を「振り落とす場」ではなく、「互いの可能性を探る場」にする。そんな思いがあるからこそ、橋本さんは現場と率直に意見を交わし、入社後の活躍につながる人材要件を定義できているのだと感じました。
企画・編集/海野奈央(doda人事ジャーナル編集部)、岩田悠里(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/宮本七生
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