NTTドコモのスキルベース人材マネジメント─生成AIで実現する社内400スキル可視化とキャリア自律性向上

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株式会社NTTドコモ

総務人事部 人事戦略 担当部長 郡 康之(こおり・やすゆき)

株式会社NTTドコモ

総務人事部 人事戦略 HR tech担当 担当者 伊藤 鮎美(いとう・あゆみ)

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  • 約51,000人のドコモグループ社員(2025年3月末)に対応する約400のスキルを定義。生成AIを活用しつつ、人事と現場が実用性を検証・調整することで、「現場で活用できる」スキル体系の構築を実現した
  • 「Career Growth Hub」や「Job-Voyage」など独自ツールを展開し、スキル情報の活用基盤を整えた
  • スキルを整備したことにより、社員自身で現状を把握し、目指すポストに向けてスキル習得を主体的に計画する動きが広がっている

人的資本経営の重要性が高まる昨今、「スキルベースの人材戦略」を多くの企業が重要テーマとして掲げています。しかし実際には、スキルの整備や可視化に苦戦したり、その後の情報活用にまで踏み込めていなかったりと、取り組みが構想段階にとどまっている企業も多いのが現状です。

そうした中、NTTドコモ(以下、ドコモ)グループでは生成AIを活用し、人事と現場が連携したことで、130職種・約400スキルに及ぶ大規模なスキル体系を構築しています。さらにドコモ独自で開発した人事AIレコメンド基盤「Job-Voyage」や、社員の自己理解促進を目的としたダッシュボード「Career Growth Hub」を展開し、スキル情報の活用にも踏み込んでいます。

ドコモグループ全体という規模感でスキル整備・活用の両立を実現できた要因はどこにあるのでしょうか。その具体的なプロセスと運用ノウハウを聞きました。

ドコモにおけるスキルベース人材マネジメントの推進

──ドコモがスキルベースの人材マネジメントを推進している背景を教えてください。

郡氏:ドコモでは人的資本経営の取り組みを推進し、社員一人ひとりの成長によって社会への提供価値を高め、ひいては自社の事業成長につなげることを目指しています。個人と事業を結びつけるための重要な要素が「スキル」です。社員がスキルベースで成長することで、事業課題の解決や新領域への貢献につながると考え、スキルベース人材マネジメントを重視し、社員の成長と事業成長の好循環を生み出す仕組みづくりに取り組んでいます。


出典:ドコモ提供資料

 

ただ現場の各部署では、「どのメンバーがどんなスキルを持っているか把握しきれない」「どのようにスキルを伸ばせばいいかわからない」と感じている現状もありました。こうした課題を受け、ドコモでは2024年から、社内のスキルマップを体系的に整備する取り組みを開始しました。その後、NTTドコモビジネス、NTTドコモソリューションズへと広がり、現在ではグループ3社合同のプロジェクトとして展開されています。

──プロジェクトはどのような体制で進めているのですか。

伊藤氏:ドコモ 総務人事部HR tech担当とキャリア開発担当、さらに事業部門の現場に所属する専門分野人事が協働し、プロジェクトチームを組成しました。

事業ごとの専門分野から落とし込んだドコモ人材像を、「タレントプロファイル」として130職種に分類していたのですが、今回はその後続として、タレントプロファイルに求めるスキルを位置づける「dスキル」の策定に着手しました。これまでの工数を考えると、全てを人手で実施することは難しい状況だったため、AIの活用を考えるようになりました。ドコモグループでは、「テクノロジーと人間力で新しいつながりを生み、心躍る価値創造で、世界を豊かに、幸せに。」というビジョンを掲げており、生成AIをはじめとするテクノロジーの業務活用は、以前から積極的に検討してきたテーマでもあります。


出典:ドコモ提供資料

 

生成AIが出した素案を、人事が「現場で使いやすい形」に

──スキルタクソノミー構築のプロセスで、どのように生成AIを活用したのでしょうか。

伊藤氏:さまざまな場面で生成AIを活用してきましたが、特に効果を発揮したのが「スキル抽出」のプロセスです。

当社は事業領域が多岐にわたり、そのフィールドは通信事業から競技場運営にまで広がっています。そのため職種も多様で、スキルや専門性もそれぞれ異なります。こうした状況下で、ドコモグループで必要とされるスキルを効率的かつ網羅的に抽出する手段として、生成AIを導入しました。

当社が契約している複数の外部生成AIツールに、各ポストの業務内容(ジョブディスクリプション)や各職種(タレントプロファイル)の定義、従来のスキルチェックの設問などを読み込ませます。これらを基に、各タレントプロファイルで求められるスキルとそれを測るための設問の素案を生成しています。

──AIが作成するdスキルの素案は、人事の目から見て満足できるクオリティーになるのでしょうか?

伊藤氏:全体の骨格として活用できる水準になりました。AIに情報を読み込ませるだけでなく、プロジェクトチームや現場と丁寧に擦り合わせを重ねたことが、精度向上につながっています。たとえば、スキル定義において「社内独自性」と「市場共通性」のどちらを優先するかという議論もありました。ドコモグループは多様な職種・多くの人材を抱えているため、まずは社内独自性を重視すべきだという判断のもと、ジョブディスクリプションの情報をベースにスキルを抽出するアプローチを採りました。こうした人の判断と議論を土台に置いた上でAIを活用したことが、クオリティの担保につながっていると思っています。

ただ、個々のスキル定義を精査すると、実態と合わない記述が見られることもあります。実際に、私自身が知識を持つ人事関連職種のスキルを見ていると、違和感を覚えるものもありました。

そのため、生成AIのアウトプットをそのまま取り入れるのではなく、HR tech担当や現場の専門分野人事が確認してdスキルを作成しています。

郡氏:システム開発の部門からは、「スキルをより具体的に定義するため、“Python”などのプログラミング言語レベルで記載してほしい」という要望も挙がりました。こうした現場ニーズとの調整は人が担う必要があります。AIが出してくれるのはあくまでも素案。現場での実態に即した形に仕上げることが人事の役割なのです。

伊藤氏:こうした関係者間の合意形成の調整が、プロジェクトを進める上で最も難易度の高いプロセスでしたね。

もともとドコモ独自で進めていた取り組みをグループに広げましたが、当然ながら各社それぞれに考え方があります。今回のプロジェクトを通じて、グループ全体で同じスキルベース人材マネジメントを運用していくことに意義を感じてもらう必要がありました。

事業部門で専門分野人事を務めている担当者からも理解を得られるよう、プロジェクトに関する説明会を開いて丁寧に伝えていきました。

──グループ企業や事業部門など、多くの関係者を巻き込んで合意形成を図ることができた秘訣は何だったのでしょうか。

郡氏:スキルベース人材マネジメントを進める目的や意義を、同じ目線で理解してもらえるようになったことが大きかったですね。

グループ各社それぞれに人事の哲学や大切にしている価値観は異なりますが、最終的なゴールは同じです。社員が成長し、活躍できるようにスキルを伸ばしてもらう。そのための仕組みを人事が社員へ提供する。こうした意識がグループ全体で共有されていったことが、円滑な合意形成につながりました。

また、総務人事部長もスキルベース人材マネジメントへ高い関心と期待を寄せ、グループ内での統合に積極的に力を入れてくれました。トップメッセージとして現場へ方針が伝えられたことで、プロジェクトがさらに円滑に進むようになりました。

社員のキャリア自律を促す「ダッシュボード」と「人事AIレコメンド基盤」

──運用についても教えてください。整備したスキル情報は、現在どのような場面で活用されていますか。

伊藤氏:主には育成と配置検討での活用を進めています。

現時点で特に役立っているのは「スキルの現状把握」です。当社では年1度、スキルチェックを実施していますが、これまでは実施後の振り返りやネクストアクションへの仕組み化が進んでいませんでした。

今回のプロジェクトでは、整えたスキル体系に基づき、各社員が自身のスキルを把握できる「Career Growth Hub」というダッシュボードを提供。今後は伸ばしたいスキルに応じた社内の研修コンテンツをレコメンドしていく予定です。


出典:ドコモ提供資料

 

郡氏:もう一つ、スキルベース人材マネジメントの軸となっているのが、人事AIレコメンド基盤である「Job-Voyage」というドコモ独自で開発したAIエージェントです。グループ内の2万人超の社員と1万超のポストの情報を独自アルゴリズムで処理し、一人ひとりに最適なポストをAIがレコメンドする仕組みになっています。

「Job-Voyage」は人事情報分析基盤と連携しており、社員個々の職種や職務経歴、異動希望などの情報が蓄積されているため、個人の特性に応じたレコメンドが可能です。


出典:ドコモ提供資料

 

さらに直近では、代表取締役社長がモデルになっている「アバター前田社長」にキャリア相談ができる機能を追加しました。社員が関わった過去のプロジェクト内容などについてAIと対話することで、本人のキャリア意向を深掘りすることが狙いです。


出典:ドコモ提供資料

 

キャリア意向が明確になり、「このポストを目指したい」と思うからこそ、「このスキルを身に付けたい」という意欲も自然と高まります。そんなふうにキャリアを自律的に考える基盤として活用してもらいたいと考えているのです。

1日400アクセスの反響。社員の自律的なキャリア意識に変化が生まれた

──スキルベース人材マネジメントを進めてきたこれまでの取り組みで、どんな手応えを持っていますか。

郡氏:「Career Growth Hub」については、リリースから2カ月間、1日当たり400アクセスを記録しました。対象となっているドコモのコンシューマ事業を担当する社員は約2万人。その中でこのアクセス数を継続したことは、社員の関心を着実に集めた結果だと感じています。

伊藤氏:私の元へは社内から個別にDMが届いて、ダッシュボードについて好意的な感想ももらいました。当社としては「人事データを社員に還元する」初めての試みでしたが、想定を上回る反響がありました。

──社員のキャリア自律に向けた変化は?

郡氏:当社が四半期に1度実施しているエンゲージメント調査では、キャリア自律度を測る指標が、2024年度の52%から2025年度は4ポイントアップして56%となりました。長期的には離職率の改善にもつながると見込んでいます。

伊藤氏:事業部門で働く同期入社の社員からは「資格取得支援制度を利用してみたい」といった声を多く聞くようになりました。新たなスキルを自律的に習得しようとする社員の動きが広がっています。

──取り組みが進んだ今だからこそ感じている課題はありますか。

伊藤氏:スキル体系は、一度つくって終わりではありません。社会が変われば求められるスキルも変わります。スキルを形骸化させないためにも定期的な見直しが必要であり、その運用体制の構築が次の課題です。

郡氏:今日たどり着いた正解が明日には変わる可能性もあります。私たちは「変わること」を前提にして、「継続的に変わる仕組み」をつくらなければならないのだと認識しています。

伊藤氏:今後スキルを体系化したいと考えている企業も多いと思います。「継続的に変わる仕組み」を考えるという意味では、100%のクオリティになっていなくても、80%程度でスタートしていくことが大切なのかもしれません。最初から100%を目指して準備に時間をかけても、その100%を見直さなくてはいけないタイミングがすぐにやってくると考えているからです。

郡氏:取り組みの継続性を考える上では、プロジェクト関係者の負担を軽減する設計も重要ですね。当社はスキル抽出のプロセスで生成AIを活用していますが、この他にも活用のポイントを見出せるのではないでしょうか。

──ドコモグループでは今後、スキルベース人材マネジメントをどのように進化させていく計画ですか?

伊藤氏:今は社内にないスキルが、将来の事業発展のために必要になるかもしれません。現状では社内にある職種やスキルにフォーカスして取り組みを進めていますが、今後は外部市場との接続も図っていきたいと考えています。一般的なスキルタクソノミーと当社のスキルタクソノミー(dスキル)を比較し、社内のスキルに足りていない観点を補強したいですね。

郡氏:社員がパフォーマンスを高める要因はハードスキルだけとは限りません。人間力や健康状態、上司との良好な関係など、さまざまな要素があるはずです。今後はスキルを超えて、個別に備わるコンピテンシーのデータ化にも挑戦し、「人のパフォーマンスを向上させる要因」をさらに追求していきたいと考えています。

【取材後記】

取材の終盤、郡さんと伊藤さんは「社員の協力を得て集めた人事データだからこそ、社員の役に立つよう還元していきたい」と力を込めて話していました。ドコモグループがスキルを整理して体系化するだけでなく、その先の実運用まで徹底的に設計・実行できているのは、社員起点で人事の取り組みの意義を考えるスタンスがあるからこそだと感じました。

企画・編集/酒井百世(doda人事ジャーナル編集部)、岩田悠里(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

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